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 あれから数ヶ月が過ぎ夏休みに入った。  霧が覆いつくすようになり、作物はほとんど萎れている。  時々、夏の太陽光が届き、霧がやわらぐ。  そんな霧の中を十数人の集団が動いていた。彼らは防人(さきもり)隊。国内の防衛に努める部隊だ。  その防人隊の中に清弥はいた。  槍ではなく、弓矢を持って歩いている。フワフワと飛ぶ日国の人さらい無人機を射落とすために。  夏休みに入る前、和国がよろしくない状況であることが国民に伝えられ、国民総出で防御にあたることになり――、  武術科と奇術科の高校生も夏休みから防人隊に参加することになったのだった。  と、言っても、高校生は学校や住んでる地域の見回りをする程度だ。  清弥は老若男女の武術師や奇術師と共に町内を歩き回りながら、福島君は大丈夫かなと考えていた。  夏休みに入る前のこと――。  和国の危機が知れ渡り、先生から防人隊に参加する旨の話があった。  その話があった日、福島が珍しく浮かない顔をして、 「話がある。土手に来てくれ」 と言ってきた。  何かあったのかと不安な気持ちで清弥が行くと、福島がぼーっと河向こうを見つめていた。 「俺の母と妹が連れていかれた……。ちゃんと護れなかった……」 「人さらい?」  福島が力なくうなずいく。こんな元気がない福島を見たことは無かった。 「きっと、忍者隊が連れ帰してくれるよ」 「無理だ」  清弥が福島を励まそうとしたが、福島は首を振る。 「忍者隊は数人ずつしか連れ出せない。けど、人さらいはどんどん起きていて、救出が間に合っていないんだ。  おやじが忍者隊に入っているからいろいろと話を聞いたんだけど、第一回の救出が成功したせいで、最近は日国の防御が厳しくなって、忍びこむのが難しい状態だって。  だから、二人とも戻れるのはいつになるかわからない……」 「そうだったの……。 もう少し早く国は対策できなかったものかね。そうすれば、二人とも――」 「だとしても、あまり変わらないかも。  日国は無人機でいつの間にか侵入して人を連れていってるらしいし。  その話が出たのも最近だしな。みんな対応しきれずにいる」 「そっか……。  てか、福島君には妹さんがいたんだね。だから、女には優しいの?」 「まぁな。  けど、俺のせいで妹はイジメられてた……アニキはゴリラってな。  一番傷つけたくない人が傷つけられて、俺どうしたらいいかわからなくて、気づいたら、イジメたやつらをボコボコにして、捕まって、なぜか力がみこまれて、この学校にきたんだよね」  福島は力なくそう笑い、清弥は福島の意外なカミングアウトに驚いた。  福島が何かを決めこんだように前を見つめる。 「……俺、防人じゃなくて、忍者隊に参加するよ。そうすれば、助けられる人が増える」 「えっ……、忍者隊は危険で、まだ技術力が低い高校生は参加できないんじゃ……」 福島の決意に清弥は動揺を隠せない。 「俺はやるよ。危険てだけで禁止ではない。先生の許可が下りれば、参加できる」 「そうなんだ」 「うん。俺はおやじから手ほどきを受けることができるしね。 先生を終業式までに説得するよ」  福島は強くこぶしを握っている。 「そっか……。頑張ってね。  忍者隊に行くなら、気をつけてね」 「うん。ありがとう。 話を聞いてくれてありがとう」  この話の後、福島は先生と話し合い、終業式までには忍者隊への参加が決まった。  けれど、初めは訓練ばかりらしく、夏休みに入ってからも時々会っては、早く現場に行きたいとグチを言っていた。  が――、最近は音沙汰がない。  訓練が厳しいか、現場に行っているのかもしれない。  清弥はただ、福島の無事と元気であることを祈るのだった。 ブゥィーン……。  耳障りな音がして清弥はハッと身構える。 「人さらいがいるぞー!」と、部隊長が声を張り上げる。  ちょうど霧がやわらいで陽光が差し込み、人さらいと言われている日国の無人機を見てとらえられた。 「奇術師準備用意、武術師、弓構え!……放て!」  人さらいが頭上に来た瞬間に一斉に放たれる。  人さらいはそれらを避けようと、高く登っていく。  放たれた矢も奇術師の放たれた術力の光の筋と合わさって高く登る。 「え?」  あと一歩というところで、人さらいは姿を消した。  落胆の声がもれ、部隊長はチッと悔しそうな顔をする。  だがこんな時に、清弥は術と共に上がっていった矢がきれいだったなと思った。  今まで一対一でしか闘ったことがなく、共同で闘ったことは無かった。  三年生になると、奇術科と共同の実演があったり、現場実習もあるのだが、 二年生の清弥はやってないので、この防人隊の参加は勉強になることばかりだった。  特に、独りではなく、みんなと協力して闘うことの素晴らしさに気づいたのは、清弥にとって大きかった。  霧はまだまだスッキリしない。  清弥の中のモヤもまだまだあるが、少しずつ無くなっていく気がしていた。
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