6.謎の女、さらに謎になる

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6.謎の女、さらに謎になる

 やっぱり高天原。800万人集まっても大丈夫! イナバ物置!  リアル因幡出身の白兎がぴょこんと頭を傾げた。  イナバ物置による因幡の知名度向上に感謝しているらしい。  CMか。  ともかく高天原の広場に集まった800万人の現人神(あらひとがみ)候補生。  服装も神主の狩衣から、巫女服、……約一名(その名は大代弥生)は普段着とバラバラだが、みな神妙な顔で高天原の広場に並んでいる。  因みに霊魂だけ高天原に来てもらったので、現世では800万人分の身体が意識不明で寝ているはずである。明日のニュースが恐ろしい……。  櫓(やぐら)の上から、現人神候補生の人数を確認していた文殊菩薩。  そこに、同じく地上で人数を数え終えたイザナギが、報告のために櫓を昇ってきた。 「隊長、現人神候補生800万人集まりました! どやぁ……」  誇らしげな顔がうっとおしい。文殊菩薩は容赦なくイザナギのほっぺたを引っ張った。むぎゅー。 「誰が隊長ですか。そもそも、あなた800万人中10人しかスカウトしていないのに、よくもまぁそんな誇らしげに……。今まで一体どこで何してたんですか!」 「ひでででで。ほめんなさい。ひょっとひゃぼようれー(ちょっと野暮用でー)」  櫓を見上げてる候補生たちが、ざわざわしている。  仮にも神様のイザナギが、子供のようにほっぺを伸ばされているのに驚いているのだろう。  やだこんなにほっぺたがもちもちしてるのを知られるなんて、恥ずかしい……!(そっちかーい)  引っ張られつつも、ちらりと下を見たイザナギの目に、険しい顔でこちらを見上げる大代弥生の姿が映った。 (おのれー、お前の兄貴の彼女探すのに、時間食って叱られてんだぞ! 俺に代わってお前がもちもちされればいいのに!)  見当違いの恨み言を考えるも、「聞いていますか、イザナギ!」と文殊菩薩に怒られ、さらにほっぺをもちもちされることになった。 (まぁ、結局『兄貴の彼女』は見つからなかったし、弥生が焦れるのも当たり前かー。なんかもう最初っから存在していない可能性を考えた方が……。いやでも、弥生は見たことあるっていってたし……)  文殊菩薩のありがたいお説教を右から左に聞き流しながら、イザナギは先ほどの事を思い出していた。  □□□  実は高天原に戻る前に女の居場所を尋ねようと、馴染みの神々に会いに行ったのである。 『北斗星君』と『南斗星君』。  北斗七星と南斗六星を神格化した二神であり、それぞれ死と生を司っている。  ……別にナントカ神拳の伝承者ではない。  人間の寿命を管理している彼らなら、女の消息を掴んでいるはずだ。  だが――。 「そんな女は、いない?」  呆然とした弥生の言葉に北斗星君はのんびりと答えた。 「あぁ、少なくとも人間にはいねぇなぁ。なぁ南斗の」 「……まて、長考中に話しかけんじゃねぇ」  ぶっきらぼうな南斗星君の言葉に、北斗星君が笑い弥生に向かってやれやれと肩を竦(すく)めた。  二人は囲碁の最中だったらしい。しかも盤面は膠着していて、一手打つのに数時間は掛かっている。  今は南斗星君が長考中らしく、北斗星君がイザナギ達の相手をした。 「っし、これでどうだ! 北斗の!」  パッチーンといい音を立てて、碁石を置いた南斗星君。  今度は北斗星君が難しい顔で盤面をのぞき込んだ。  途端に機嫌がよくなったのは、南斗星君である。 「はっはっは、この一手は苦労するはずだぜ、北斗の。――で、なんだったか。あぁ、そうだ。その女は俺たちの『人間の寿命帖』には載ってねぇ。だが、存在しないってわけでもない。なぜなら、兄ちゃんが目撃してるからな」  弥生は、困惑したまま頷いた。  それを受けて、南斗星君は納得したように肩を竦めた。 「じゃあ決まりだ、そいつは人間じゃない」 「……人じゃないっていうのなら、あの女は何だってんだ?」 「さぁて、神か悪魔か。……もしかすると死神かもな。まぁ人じゃない以上、俺たちじゃ特定はできねぇ。神だの悪魔だのの管轄はもっと上のところでやってるからな。それこそ、『神さまサミット』とかな。ああ、そういや――」  そこまで言いさして、南斗星君は何かを思い出したのか、訝しげな顔をしてイザナギに声をかけた。 「……よぉ、イザナギ。お前こんなところで油売ってていいのか。その『神さまサミット』で、てめぇの首がかかってるって聞いたぜ?」  シリアスな会話に耐え切れず、こっそりと渡哲也に釣られたカジキマグロのまねをしていたイザナギは、その言葉に飛び上がった。  実にいきのいいまぐろだった。ビチビチ。 「ヤバイ、遅れ過ぎた! 怒り狂った文殊えもんに地球破壊爆弾出される……。弥生! その女、また今度探してあげるから、先に俺との約束果たしてよ」 「――ッ。……わかったよ」  集合場所の高天原へバタバタと走りだす二人。  まだまだ長い勝負を続けている二人の神は、その後ろ姿に片手を上げて見送ってくれた。
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