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8.ああああの神、爆誕
とりあえず、神になるには祭神名を名付けて、神社建てて、適当な由緒作って拝んどきゃあいいんだよ!(※全国の神社に土下座レベルの偏見)
というわけで、イザナギは高天原の広場に張った天幕の中で、面接官さながらの質問を神様候補生たちに浴びせながら、祭神名の名づけ作業に勤しんでいた。
疲労で逆にテンションがヤバイが、効率のいいやり方を考えたので、すでに390万人は終わっている。
(ノルマはあと10万人……余裕余裕)
もはや数字の感覚もおかしいが、イザナギはまだまだやる気だった。
「よっしゃ次、ばっちこーい!」
呼ぶ声に応じて、恐る恐る天幕に入ってきた神主を、イザナギは大げさなジェスチャーで藤の椅子に座らせた。
そして眼の下に隈を浮かせたままのイザナギは、神様候補生の青年にハイテンションで質問する。
「よーし。君何歳? どこ住み? あ、Lineやってる~? ていうか、童貞? 非童貞?」
ナンパかよッ! と、弥生なら突っ込んでいたはずだ。だがここにいるはずもなかった……。
一方質問を浴びせられた若き神職の青年は、わたわたと動揺して顔を赤らめた。
「えっと、その……か、神奈川からきました、35歳神職です……。ら、Lineはやってません……」
目を白黒させつつも、律儀に答える神主さんじゅうごさい。
「ふーん、女性経験は? あ、男性経験でもいいけど?」
「あ、ありません><;」
「へぇ、初めてなんだ。……かわいいね」
にっこり笑うイザナギ。目が据わっている。
……多分徹夜のせいだ! いいね?
「///」
神主は照れてぱっと顔を伏せた。イザナギからは見えなかったが、目のふちがじわじわと赤くなってる。
まんざらではなさそうだ。
この瞬間、高天原にBL時空が爆誕し――。
「なにをいかがわしいビデオみたいな質問してるんですか」
天幕にスタンスタンと文殊菩薩が入ってきて、ハリセンでスパーンとイザナギの後頭部を引っぱたいた。
衝撃にイザナギは机に顔を打ち付ける。
高天原の風紀委員はBL時空に敏感だったのだ。
「ぶべほ! べ、別にいかがわしくねーし。必要な質問だもん! しょしょ、しょうがねぇですよ!」
打った顔を押さえつつ、イザナギは文殊菩薩を見上げて弁明した。
が、どもりまくってたので説得力皆無である。
「言動が怪しいんですよ。まったく、たまに様子を見に来たらこれなんだから……。あぁ、あなたはもう戻っても構いませんよ。すみませんね、この変態のせいで不快な思いをさせてしまって」
「い、いえ、そんなとんでもない……。し、失礼します、はい」
顔のほてりが収まらないまま、そそくさと天幕から出ようとする神主。
イザナギは、その背にさっき5秒で名付けた名を投げつけた。
「あ、君の祭神名『亜亜亜亜神、第1583935号』ね。君の神社の建立は窓口四番担当だから、そこんとこ宜しくお願いシマース」
『亜亜亜亜神、第1583935号』――読み方は、『ああああのかみ、だい1583935ごう』だ!
ああああとは、RPGのゆうしゃの名前考えるのがめんどくさいプレイヤーに大人気の名前である!
あまりの酷さに、遠ざかりつつあった青年神主の肩がガクッと落ちた。生きろ!
「なんですかその適当すぎる命名は……」
文殊菩薩は頭痛を耐えるようにこめかみを抑えた。
イザナギは、ふえええと涙目で文殊菩薩を見上げた。だが、ヤローの低音デスボイス。残念ながら萌えない。まったく。
「だって! 半日で400万人の名前考えるとかムリゲーだろぉ! どうせすぐ人間に戻るんだから、適当でいいじゃん! 効率重視でいこうよ~」
ノルマのキツさと疲れもあるのか声まで鼻声である。ブラック業務つらたん……。
文殊菩薩はため息をついた。
……まぁ、一人で400万人近く名前つけなきゃいけないとなれば、楽な手も必要か。むしろ、ただでさえ飽きっぽい駄々っ子が390万人も捌いたことを褒めてやるべきかもしれない。やればできる子イザナギ!
……と褒めると調子乗るからやらない(酷)
「まぁ確かに。効率重視なのも時間が足りないことを考えれば、いい方法だと思います。……ただ一つ懸念があるとすれば、同じ名前を持つ神ということで同一神にみなされないかということですが」
『亜亜亜亜神、第1583935号』ということは、少なくとも同じ『亜亜亜亜神』でシリアルナンバー(?)違いの神が、158万人以上いるということだ。
そうすると、同一神の別名ということで158万人の神をたった一人としてカウントされる可能性がある。
ただでさえ800万の現人神を用意するのもギリギリなのに、そのうち158万人が同一神とみなされれば、800万人を割るのは確実だ。
計画が破たんする予感に、文殊菩薩は微かに眉をしかめた。
「俺もそれは考えたけど、心配ないと思うよ?」
「? どうしてそう思うんです」
ふふん、とイザナギは得意そうに胸を張った。
「今の現人神候補生たちは、霊魂だけこっちに来ているとはいえ、現世には体があるからね。肉体は魂の檻だ。
肉体がある限り、魂は混ざらない。そして、魂が別物なら、同一存在としては認められないはずだ…… Q.E.D.(証明終了)。ドヤァ……」
文殊菩薩は関心したように頷いていたが、イザナギのドヤ顔を見てこれ見よがしにため息をついた。
「30点」
「辛(から)い?!」
「仮説は満点でしたけど、顔がイラッとくるので……。いっそアンパン〇ンのごとく顔を変えてもらった方が後世のためでしょうね。それにしても一体何で出来てるんでしょうか、この饅頭顔の手触りは」
むいむいと、文殊菩薩はさらにイザナギのほっぺたを引っ張った。
「ひでででで……」
「……ん? そうするとあなたの理屈なら、もし候補生たちが全員亡くなって魂の檻である肉体から解放されてしまったら、158万人分の神霊が合体して一人の強力な神が誕生することになりますね。むにむに」
「おれのほっぺたひっぱりながら、かんがえにひたるのやめてもらえませんかにぇー!」
イザナギの懸命の抗議!
だが、ふむと思案顔になった文殊菩薩はイザナギの訴えなど聞こえないようだった。
「となると、地上にある候補生たちの肉体の警護はもう少し強化しないといけませんね。万が一地震でも起きて、現世で全員が死んでしまい、158万人以上の神霊が合体したら、319柱しかいない日本の神々じゃ太刀打ちできませんから。警備の更なる人員派遣か……。つまり効率化を目指して、かえって非効率になったってことですか。ふーん? どうしてこうめんどくさい事になっちゃったんでしょうかね。この饅頭は」
ほら? 弁明があるんなら言ってみなさい、ん? ……と笑顔はにこやかながら、文殊菩薩はイザナギの顔を引っ張る手にぎちぎちと力を込めた。
いつのまにか、文殊菩薩☆インテリヤクザフォーム☆になっておる……。
イザナギのほっぺが際限なく伸びてぶちゃいくな顔になった。抗弁する声も潰れている。
「ご、ごべんにゃさい(ごめんなさい)」
ついでに文殊菩薩の気迫に感化されて、イザナギはとんでもないことを思い出した。
(……じ、実は俺が命名したのは158万人どころか、390万人っていうのは言わにゃい方がいいんだろうにゃー)
文殊菩薩から視線だけをそらしながら、イザナギはひとりごちた。言うなよ! 絶対文殊菩薩に言うなよ!
「言いなさい?」
聞こえていたらしい。仏だけに地獄耳だった……。
「……ふぁい。あの、おれが命名したのは二つのパターンがあってれすね! 童貞は『ああああ神』で、非童貞は『昨日はお楽しみでしたね神』にゃのです。それぞれ195万人強はいて、足して390万人ににゃりましゅ……」
……そういえば、あのセクハラ面接モドキに、『童貞か非童貞か』という質問があった気がする。必要な質問だとほざいてたが、実に愚にもつかない理由だった……。
文殊菩薩はますます笑顔になった。得体の知れないゴゴゴという地鳴りまで響いてくる。
一方、イザナギのほっぺたは、文殊菩薩の機嫌に反比例するように、なんかもうむにょーんと際限なく伸びていった。これで喋れてるのは奇跡に近い。
「ネーミングセンスの酷さは置いておくとして……つまり?」
「も、もひですよ。390万人全滅したら、『ああああ神』と『昨日はお楽しみでしたね神』の二大神が誕生して、ハルマゲドンがおきますれ。
リア充と非リア充の化身が対決するんらから、そりゃあもうゴ〇ラの怪獣映画みたいになりますれ。
ふふ、こないらシン・ゴ〇ラ見てきたんらけろ、あれとってもよかったの。素敵らなぁ……。ね、高天原でも怪獣対決見られるならちょっと楽しみれすにぇー」
とろーんと、イザナギはにやけ面になった。
文殊菩薩の笑顔が凄惨を極める――。
……ぶっちん。
イザナギのほっぺたは犠牲になったのだ……(なってない)
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