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◇
「お願い、琴也……僕をきつく縛って……」
自ら裸になり目の前で縛られることを懇願する幼馴染の姿は、今の琴也にとって目の毒だった。
鈴真の秘密を知った後、知らず知らずのうちに彼との接触を避けようとした琴也だったが、今度は鈴真のほうから琴也に頻繁に接触するようになっていた。
一度は琴也を遠ざけようとしていた鈴真の心境を真逆に変化させたのは、やはりあの夜の出来事がきっかけだったのだろう。
鈴真は琴也が見ていたことを承知で、あのような態度を取ったのだ。
「お願い……」
「鈴真、俺にはできない」
「僕のこと抱きたいって思っているくせに」
琴也の消極的な反応を感じ取ったのか、鈴真は尻の割れ目に指を這わせ、視覚的に琴也を煽った。
「本当は僕を抱きたくて抱きたくてしょうがないんでしょう? 僕のこと、女の子を見るような目で見ていたもんね」
「頼むから……」
「どうして? 琴也のここは、こんなにも高ぶっているのに」
制服の上から性器を鷲掴みにされ、琴也は思わずたじろいだ。
男同士だといえ、幼い頃から親しい間柄だといえ、鈴真から性的対象と思われることに、琴也は抵抗があった。
だが鈴真からの誘いを遠ざけているうちに、琴也は鈴真が自分に求めるものに気づき始めた。
あくまで鈴真が求めるものは自らを痛めつける存在だ。鈴真は痛みを与えられることに快楽を見出していた。察するに、きっかけは彼の父親だろう。
しかしいつの間にか自らを痛めつけることに、鈴真は慣れ切ってしまっていた。自分自身を傷つけることには、やはり限界がある。
そして鈴真は辿り着いてしまったのだ。
琴也という、自分を最も理解し、最も大切に傷つけてくれる存在に。
「さあ、琴也。僕を縛って」
何が鈴真をそうさせたのか、琴也には理解できない。
だが鈴真は琴也の感情が遠のいていくごとに、あろうことか他人から見える部位を故意に傷つけ始めたのだ。
引っ掻き痕や切り痕までは見て見ぬふりができた。薄情だと思われるだろうが、鈴真が琴也の気を引くための自傷行為だということが、すぐにわかったからだ。
しかし数時間前――鈴真が美しい顔に青痣を作って琴也の前に現れたとき、逃れられない運命を琴也は悟った。
鈴真に導かれるまま、琴也は彼と共にあの離れの中に入っていった。季節は冬に近づいていたが、離れの中は独特の熱気が漂っていた。
実際に見たことはないが、離れの中を一言で言い表すとしたら、さしずめ拷問部屋だ。
縄や鎖がいたるところでとぐろを巻いており、壁には枷や鞭が芸術品のように飾られ、板張りの床には蝋が溶けたような跡も残っていた。
どうしてあの夏の夜、離れの異常性に気づかなかったのだろう。当然鈴真を見ていたからだ。
琴也を離れに連れこんだ鈴真は、手始めに香炉を炊いた。劇物は鼻よりも先に琴也の脳を焼いた。気分が高揚していき、性的欲求が高められていくのを感じた。
だが琴也はかすかに残った理性で一線を越えないように踏ん張った。言うまでもなく、相手が鈴真だからである。
鈴真は琴也の態度を焦らしていると思ったらしく、しばし放心した後、唐突にけらけらと笑い始めた。
「ああ、可笑しい。君はどうしてそんなに悲しそうな顔をするんだい? 苦しい思いをするのは僕のほうだっていうのに」
「鈴真、頼むから……俺をその気にさせないでくれ」
「嫌だ」
鈴真はむくりと起き上がり、おもむろに琴也の制服を乱し始めた。
下履きの合わせ目を開けられ、琴也の肢体に見合った性器を取り出され、それを鈴真の小ぶりな口でしゃぶられた。琴也にとって口淫は未知の快感だった。
汚いだろうに、鈴真は襞の間まで丹念に舌を這わせ、すべてを喰らいつくすように琴也を愛でた。
鈴真の口腔内に白液を吐き出す頃には、琴也の理性は崩壊していた。
琴也は鈴真の髪が抜けてしまうほどに強く掴み、彼の頭部を何度も自らの股間に押し当てた。
鈴真の首は人形のようにがくがくと揺れ、今にももぎれてしまいそうだった。
それほどまでに華奢な肉体を琴也は執拗に貪っていった。きっとこの異常な空間のせいだと自らを騙しながら。
鈴真の胎内に自らを収めた瞬間、琴也は深い罪悪感を抱いた。
異常な室内を支配する邪悪な縄で首を括ってしまいたいほどの後悔だった。
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