薔薇の茶会

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「カリスマの(もと)にかつての覇権を取り戻す。我が国も是非とも見習いたいところではあります」  馥郁とした薔薇の香りが漂う中、首相は弛んだ頬を幾ばくか紅潮させて言い切った。  私は思わず我が国の女王と隣国の王女を見やる。  一方は打ち沈んだ、他方は醒め切った眼差しをしていた。 「ブリタニアの女帝陛下は確かに傑出した方です」  ノンカは皺も弛みも無い滑らかな小さな面の中で、そこだけが異様に老いてしまった風に沈んだ栗色の瞳で続ける。 「ですが、我がトラキアにおいては他国に侵出するような歴史は二度と繰り返されるべきではありません」  ナディアも冷えて固まった黒耀石(こくようせき)の目で言い添えた。 「祖国を奪われる悲しみは奪われた者にしか分からない」
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