薔薇の茶会

14/25
前へ
/25ページ
次へ
「敗戦後も国の象徴として王位に留まった曾祖父について近隣諸国のみならず国内でも厳しく非難する声があったこと、その責務は子孫である自分が負う立場であることも私は知っています」  トラキア王国現女王ノンカの曾祖父、ボリス三世。  今から七十年余り前にこの国はゲルマニア、ヴァティカニアといった西側の軍事独裁国家と同盟して近隣諸国に侵攻し、世界大戦を引き起こした。  国王ボリス三世はトラキア陸海空軍の大元帥でもあった。 「ボリス三世は偉大な君主でした」  ホッジャ首相は晴れやかな笑顔で頷いた。  まるで今まで私たちが現女王の曾祖父を称える話をしていたかのように。 「戦前のトラキアの誇り高い社会を見直す動きも強くあります」  私たちは茫然と独裁者を見詰めた。  薔薇の匂いが応接間全体に重く堆積していく。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加