薔薇の茶会

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「我が国と周辺諸国の歴史については様々な議論が為されるべきではありますね」  首相は氷の張ったような、濁った皮膜そのもののような目を細めて緩やかに脚を組み替えた。 「この……」  拳を握り締めて震える軍服の王女に私が思わずソファから手を差し伸べたところでまた別な方から声が届く。 「ナディア」  うら若い女王は血の気の引いた唇から重い、苦い声で呼び掛けていた。 ――カツ! カツ!  応接間の、丈高いドアを叩く音が沈んだ空気に杭を打つように響いてくる。  私は思わずビクリと身を起こしてから、それが静かだが確かに響くように良く調節した叩き方だと思い当たった。 「お入り下さい」  嘘のようにいつもの穏やかさを取り戻したノンカの声が応える。  ギイッと棺の蓋じみた音を立てて扉が開いた。
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