薔薇の茶会

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「こんなに若く美しい方々と過ごせるのは光栄です」  ホッジャ首相はテレビで見掛ける通りのブルドックじみた弛んだ頬に笑いを浮かべどこか舌足らずな口調で続ける。 「普段の仕事で顔を合わせるのは自分と同じように年取った男ばかりですから」 「他人の容姿や年齢をあれこれ言うのは失礼ですよ」  低いが澄んだ声で制したのはナディアだ。こちらは漆黒の髪を切り揃えてエメラルド色の軍服を纏った、一見すると華奢な美青年じみた麗人だ。  幼くして隣国のワラキアからクーデターを逃れて亡命した王女である彼女はノンカや私より一つ上で大学では先輩に当たる。 「それはそうでしたね」  首相は垂れ下がった頬に浮かべた笑いを苦くしつつ、飽くまで穏やかな声で頷いた。  これが独裁者と評される指導者なのだとは信じがたいような温和な物腰の老人だ。  もっとも、名だたる独裁者に実際に会った人の記録などを見ると「とても穏やかな優しい人だった」というものが少なくないし、今、私の目の前にいる彼もそうした例に漏れないのかもしれないが。
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