薔薇の茶会

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 ***** 「あの爺さんには何を言っても馬耳東風だとは知ってたよ」  後部座席のナディアはエメラルド色の軍服の肩を竦める。  横から見ると、正面から臨むより肩の薄さがいっそう目立った。  亡命者とはいえこの人は幼い頃から良い生活をしているはずなのに、貧乏育ちで中肉中背の私よりも小柄で痩せ細った体つきをしている。 「あそこまで恥知らずだとは予想外だったけど」  二十歳のこの人の顔のどこにも皺や弛みなど無いのに、奇妙に疲れて老いた悲しい笑いを浮かべた。  車窓越しに広がる日暮れの街の灯りが漆黒の瞳に点って揺れる。  さっき宮殿を辞した時にはまだ十分に明るかったはずなのに、冬の日暮れはこんなにも早いのだ。
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