薔薇の茶会

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「私ももっとはっきり意見が言えたら」  結局の所、独裁者を前にすれば萎縮するしかなかった。  理不尽な目に遭わされた母さんの労苦を訴えられたのがせめてもの抵抗だ。 「いや、君は気にしなくていいんだよ」  ナディアは白く小さな手を振った。  夕暮れの薄暗がりの中では蒼白く(ほそ)い手指の形が浮かび上がって見える。  高級車とはいえ車特有のどこか金臭い匂いに混じって微かに清新な香りが届く。  これはこの人がいつも着けている(ロータス)の匂いだ。 「薔薇の宮殿」のあの部屋にいる時は部屋いっぱいに満たされた薔薇の香りに紛れて気付かなかった。  ホッとするのと同時に、自分がいかにこの人を頼っているか改めて思い知る。 「端から聞く耳など持たない相手だから」  静かに苦く語る彼女に私の方では何も返せていない。  車窓は全体としては暗くなる代わりに間隔を置いて灯った明かりが鮮やかに煌めく景色を映し出しながら緩やかに流れていく。
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