薔薇の茶会

4/25
前へ
/25ページ
次へ
「これは厳しいお言葉ですね」  首相は弛んだ頬をいっそう崩して笑いながら薔薇の紋章の入ったカップを口に運ぶ。 「しかしながら、この度の陛下のご即位は我がトラキアの女性躍進の象徴ではありませんか」  ノンカとナディアの、異なっていながら同等に端麗な二つの面に強張りが走った。  その様を目にする私の背も寒々しくなる。 「そこの方も、母一人娘一人の家庭から苦労されて首席で大学合格されたということで」  独裁者のにこやかな顔がこちらに向けられた。 「あ……」  自分に話題が移ったらしい。 「先にもお伝えしたかと思われますが、マリア・ペトロフさんは私たちの大切な友人です」  薔薇の柔らかに香る中、静かだが、厳しい声が響いた。 「だからこそ、今日もわざわざこちらに来ていただいたのです」  若き女王の厳かに澄んだ声を耳にすると、普段キャンパスで顔を合わせているノンカではないように感じられるし、私ではなくもっと高貴な人について語られているように思える。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加