薔薇の茶会

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「マリアさんですか」  首相はにこやかに微笑んだ顔を改めてこちらに向けた。  独裁者の中でも私は「どこかの女子学生、無名の一庶民」から「女王陛下のご学友のマリアさん」という名前の付いた存在に昇格したようだ。 「お目にかかれて嬉しいです」  さっきまで名前も覚えてなかったのに? 「私も総理にお目にかかれたのが信じられません」  どうしてこんな陰鬱な、卑屈な声しか出ないんだろう。  舌打ちしたくなるのをぐっとこらえる。 「母子家庭というハンディキャップを乗り越えて男子より優秀な結果を出す。権利ばかり主張する女性が多い昨今において、あなたは我が国の若い女性の模範となる存在です」  首相はテレビのニュースでお馴染みの、曖昧な笑顔と舌足らずな口調で語る。  隣のナディアが華奢な軍服の肩をひょいと竦めるのが目に入った。
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