薔薇の茶会

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「私は確かに努力しましたが、一番の功労者は母です」  怒りを抑えて話そうとすると声がこんなに濁るのだ。 「父の暴力から私を連れて逃げた母は養育費も受け取れず、母子共に貧しい暮らしを強いられました」  私の言葉に独裁者は穏やかな笑顔で頷いている。 「世間では当然のように見られますが、本来はあってはならないことです」  自分で聞いてすらゾッとするような恨みを含んだ声になった。 「子持ちで離婚した女は貧しく苦労する身の上になって当然、母子家庭はハンディキャップだなんていう社会はいけません」  こちらを眺めるブルドッグの顔が鷹揚な微笑を作ったまま目だけが薄い氷の膜を張った風に虚ろになる。 「おっしゃる通り、女性が生きづらい社会は改善されるべきです」  それは自分の取り組むべき仕事ではないという他人事の語調だ。  この人には私のように今まで悪政への訴えをした民草をこんな風にあしらったことがそれこそ山ほどあるのだろう。  どっと疲れが襲ってきて手元のティーカップを口元に運ぶ。  甘い薔薇の匂いを放つお茶は程好く温かいが、香りから予想したよりもう少し苦い。
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