薔薇の茶会

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――リザヴェータ様が皇太子妃になった時、私は高校生だったけど、こんなに綺麗でしかも賢い方が選ばれるんだと嬉しかったよ。  今は太后になったその人について母さんは好意的にしか語らない。 ――あの頃でも、女はあまり賢くない方がいい、美人ならそれだけで玉の輿に乗れる、勉強して良い大学に行くような女はブスだなんて言う人が少なくなかったからね。  母さんは高校でも成績優秀だったが、家が裕福でなかったせいもあり、大学進学を諦めて就職した。 ――でも、女が綺麗で頭も良いとなると、どちらかが悪い場合よりも却って難癖を付けて貶す人が出るもんなんだ。  今は一回り上の太后様より老け込んだ母さんはその当時の話になると声を落とす。 “リザヴェータ妃は一外交官としては優秀でも才気走った女性なので伝統あるトラキア王室の后妃には不適格” “同じ平民出身で弟王子に嫁いだルイーザ妃と比べて言動や立ち居振る舞いに慎みが足りない” “人前で喋り過ぎる、后妃は夫を立てて控えめにするものだ” “姑であるエレオノーラ皇后からの覚えもめでたくない”  三十年ほど前の王室関係の記事を見ると、華やかに微笑んだ皇太子妃の写真と共に些細な言動をあげつらって貶し、他の后妃と比べて資質が劣り嫌われているかのように書き立てるものが目立つ。  加えて、高貴な立場の女性が互いに嫉妬や敵意を向け合う物語を好む空気は世間によく見られるが、リザヴェータ妃と他の后妃たちも内実はさておきそうした対立をむしろ期待して煽るような目線に最初から晒されていたと分かる(女性同士が陰湿な争いを繰り広げる話はこの国では娯楽なのだ)。
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