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チラッと横目で蓮井を見る。
少しウェーブがかったショートヘアを
7:3でわけ、やや長めの前髪はディップでスッキリまとめ上げ清潔感を漂わせている。キリッとした眉、クッキリした二重の瞳、高い鼻筋、薄めの唇。肌はツルッとしており、顎には小さなホクロがひとつある。
悔しいことに見た目もイケメン。
あれだけ冷たく
怒るくせに何故か上司、部下ともに蓮井課
長を恨んでいるとも嫌いだとも聞いた事が
ない
首をかしげながら、キーを叩く。
何故だろう。私は、いままで特に嫌って無かったけど今日でいっぺんに嫌いになった
蓮井課長みたいにできのいい人間には
出来のよくない人間の苦労なんかわからないに違いない。だから、あんなに怒るんだ
エンターキーを強く叩く。
ふん、落ち込んでる上に一人だけ罰みたいに残業させて。ほんとうに意地が悪い男
データを保存してパソコンの電源を落とした。
「終わりました」
蓮井課長が顔を上げる。
「そうか。お疲れ」
一番下の引き出しからバッグを取り出すとそこへやってきた課長が
「飯に行くぞ」
と、誘ってきた。
「え、あの」
課長は、ぐいっと強引に私の右腕を掴んだ。
慌てて立ち上がる。
課長は、私のバッグとコートを私の手から取り上げ、自分のブリーフケースと一緒に右手側に持ち、左の手で私の腕を掴んで歩き出す。
「あの、課長!どこに?」
エレベーター前で、隣に立つ蓮井課長を見上げる。
「飯の時間。腹が減った」
「あの、私もですか?」
「当たり前だ。残業させたんだから今夜は
奢る」
「いえ、あの……ミスもしましたし私、奢
っていただかなくても……」
手を振り回して奢りの提案を断った。
「来たぞ」
強引に課長は、私をエレベーターの奥に押し込む。
エレベーター内は課長と私だけ。
ふたりで、エレベーター奥の壁前に並んで立つ。片方の眉毛を上げて私を見る課長
私の前に立ち、左手の掌をエレベーターの壁にピタリと置く。
追い込まれる形で課長の顔が顔のすぐ目の前にきていた。
鼻先がつきそうなくらいの距離だ。
今エレベーターには、二人きり。
どこにも逃げられない状況だ。
「もしかして……松下さんさー、ミスした
せいで今日、自分だけ残業させられたと思
ってんの?」
唾を飲み込む。
こんなに近い距離で課長を見たのは今日が初めてだ。
鼻につくほどのイケメン。
仕事もバリバリこなす上司。
そして、今日、私はミスをしてこってりと怒られたばかり。
それだけに、この状況は半端ない緊張感だ。
「いや、えっと……」
課長は私の前から動かず、じっと見おろしてくる。いたたまれずに視線をあちこちへ泳がせた。
ーーー気まずいっ!
誰か乗ってきて。お願いだから!
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