優しい彼

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  壁に背中をつけて立っていた。   私に向き合うようにして立つ課長。 「まさかとは思うんだけど、松下さんっ  て俺を誤解してないかな?俺は松下さんに  頼めばきっと綺麗に仕上げてくれるって思  ったから残業を頼んだだけなんだけど」 「え?そうなんですか?」    課長は、盛大なため息をつく。 「はーー、まじか。あー、もしかして……  俺が松下さんのミスをみんなの前で注意し  たのも、俺が凄く嫌味な奴だからだと思っ  てるのかな?」 「いっ、いえ、そんなーまさか。私のミ  スですから。課長を嫌味な奴だとか、まし  てや嫌いだとかは思ってません」    慌てて口をおさえる。 ーーーあ、やばっ。何も嫌いとまで言うこ  と無かったよね?言い過ぎたかな。いやい  や、きっと課長は気にしてないよね?    課長の顔をそっと窺う。 「ふーん、松下さんってさー、俺の事嫌いなんだ?」 課長は、私の顔に近づいて私の顔を覗き込んできた。 赤くなり私は、うろたえるしかなくて……。 ーーーうっ、どうすれば……この場から逃れ  られるんだろ? 「あの課長、そんな私が課長を嫌いなんて……とんでもないです!あの、蓮井課長は、仕事も出来るし、部下から慕われて ますし、もちろん尊敬もしてます」     「ふーーーん。尊敬ねー」    課長の疑いの眼差しが痛い。    エレベーターの電子音がチーーンと鳴    る。 「着きました!」 課長を押しのけるようにして先に下りる。 「松下さん、尊敬している上司にいつま でバッグ持たせるつもり?」 ハッとして振り返ると課長の手には私のバッグとコートが握られていた。 「あ、すみません!」 急いで課長の所へ戻りバッグとコートを取り戻す。 ーーーやな言い方。無理やり自分で持って  ったくせに!!    
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