414人が本棚に入れています
本棚に追加
コンビニ内冷蔵ケースの前でシュークリームを真剣に眺める松下小衣(29)。
雑誌を手にした永坂幸介(30)が歩いてきて小衣の隣に立つ。
「それ、買うの?」
幸介がシュークリームの袋を摘まむ。
「うん」
「じゃあ、買おう」
ーーーコンビニでスイーツを買うのが楽し
みの私。ついつい新しいスイーツが発売
されると買ってしまう
幸介は雑誌と飲み物を左手で抱え右手にシュークリームの袋をつまみレジへ向かう。
「持つのが大変そうよね」
幸介の斜め後ろを歩きながら幸介の手元を覗く。
「ね、カゴ持ってこようか?」
「大丈夫。ありがとな」
ーーーあー、優しい笑顔。彼は私にめちゃ
くちゃ優しい彼氏だ
店員がレジにいるのを見計らい、幸介はレジに向かう。
バーコードを表にして持ってきた商品を並べる。
店員が品物のバーコードをスキャンする。
「合計1346円です」
「はい、じゃあ、スイカで」
人懐っこい笑顔で応える幸介。
ーーー幸介は、私だけじゃなく誰にでも優
しい。もちろん店員さんにもだ。
私にも店員さんにも分け隔てない笑顔で接する。
幸介の後からコンビニを出る。
以前、店を出てから幸介に聞いた事がある。
★★★
「ねえ、なんでカゴ使わないの?」
「あとで店員さんが
カゴを片付けるのもひと手間だろ?」
ーーーああ、そうか。幸介は店員さんの手
間を考えてたのかぁ
妙に納得して頷いたのだ。
★★★
レジカウンターの上に裏返しに並んだ品物を見つめる。
品物のバーコードのある面を上に向けるのも店員さんがバーコードを探す手間を考えての配慮だと観察していてわかった
自分たちの後ろを振りかえってみた。
会計待ちの客が二人並んでいる。
コンビニ内を見回し、視線を今目の前にいる店員へ移した。
ーーー店員さんが一人の場合、客が並んで
しまうから一度に多くは買い物しないって
事も幸介の周りに対する気配りだ
そういえば付き合いはじめの頃に、こんな事もあった。
★★★
幸介と私は、電車に乗りつり革につかまり話をしていた。
目の前に座っていた二人連れが降りていく。空いた席に私が先に座った。
「座らないの?」
「俺はいいや。俺より座りたい人がいるかもしれないから」
「そっか……」
空いた座席には幸介の代わりに大柄な男が座ってしまった。
窮屈になって体を小さくした。
ーーー乗り物に乗る時、大抵の場合幸介が座席に座らないのも、知らない人への大きな優
しさからだって事も知ってる
でも……。
ちょうど向かい側に仲良く座るカップルがいた。
ーーー羨ましいな。
漠然とそう思ってしまった。
ーーー数え上げたらきりがないほどに優しさと気配りの塊で出来ている幸介は、はっきり言って人間的には凄い人なんだと思う。
コンビニの袋を下げゆっくり歩く幸介。そのあとを歩く。
ーーーでも、人間性より何より先に考えてしまうことがある。
幸介へ少しずつ近づく。
ーーーそれって、単に優しさの押し売り?
それって、自己満足なんじゃ?
それって、少しうざくない?
はっきり言うと、やりすぎじゃない?
私は幸介と前後になって歩き話をしている。
ーーー自分って優しいとか思って満足してんじゃないの?って歪んだ目で幸介を見てしまう。
幸介の手へ手を伸ばしてみた。
でも、ここでも、過去の記憶が蘇る。
★★★
歩きながら小衣(24)、幸介(25)の隣に並ぶ。
幸介の手に触れようとする。
幸介立ち止まり、私を見た。
「広がって二列になって歩いていると他
の歩行者に迷惑だろ?前か後ろに来て」
幸介に注意されて私は、驚いて数秒あんぐりと口を開けたものだ。
「……うん……そうだね」
ーーー幸介の言い分もわかる。
でも……。
同意しながら伸ばした手を急いで引っ込める。
ーーー幸介とは、手を繋げないのかな。
前を歩く幸介の背中を見つめた。
ーーー何、いきなり歩行者って?
道路交通法でも語るつもり?
今から交通の取り締まりをする警察官にでもなるの?
それからは必ず
幸介の後ろに私がいて、縦一列になって歩く。
しばらくてくてくと歩く。
会話は、たまに前を歩く幸介が振り返
って話すってパターンが多い。
目の前にある幸介の背中をみて顔を歪める。
ーーー世間の人に優しいのも結構だよ。社会ルールもある程度必要だよ
反対側の歩道を手を繋いで歩くカップルを羨ましそうに眺めた。
ーーーたまには並んで歩きたいってそう思うのは私のルール違反なのかな?
私は自分の手を眺めた後、前を歩く幸介の手を眺める。
ーーー通行人があまりいなければ迷惑にな
らないんじゃない?ねえ、幸介。
最初のコメントを投稿しよう!