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まるで、予言であったかのよう。
母にそんなことを言われた数年後――平和な西の共和国にも、恐ろしいテロリスト達の魔の手が迫ってきたのだ。彼らは魔法を悪用し、ドラゴンを召喚しては火を吹かせて町を一つ焼いたり、逆に氷漬けにしてしまったりとやりたい放題であったのである。
ミア達も、マンションから逃げるように立ち去らなければならなくなった。ミア達が住む地域一体に、彼らが毒の煙の魔法を放ったからである。何も知らずに、煙を無防備に吸いこんでしまった人たちはばたばたと倒れていった。たまたまミアは、父が少し偉い立場の人であったために情報が早かったのだ。魔法防御の壁を張れば暫くはしのげる。それでも逃げる途中、泡を吹いて倒れている人たちを何人も見かけて戦慄することになった。ミアが十三歳の誕生日を迎えた、その年のことである。
ミアは、アンソニー達にも脅威を伝えた。だからアンソニーの家族も煙から逃げることはできたはずである。けれど彼らは、地下シェルターがいっぱいで入ることができなかった。自分達は避難先で、ついにバラバラになってしまったのである。
「どうして!なんでアンソニー達が入れないの!このまま離れ離れになるなんて嫌!一緒じゃないと嫌!もう会えないかもしれないのに!!」
泣き叫ぶミアに、きっぱりと言い放ったのは父である。母と違ってほとんど怒るということをしない父が、この時は声を荒げてミアのワガママを諌めたのだ。
「理不尽だと思うなら、喚くだけではなくどうすればそれを解決できるのか自分で考えろ!誰かに頼るな、甘えるな!もう一度アンソニーと再会したいなら、取り戻したいものがあるなら……まずは自分の足で立て、戦え!泣きわめけば誰かが思い通りにものを目の前に持ってきてくれるだなんて考えるな。何のためにお前の両手は、両足は、魔法の力は、考える頭はあるんだ!」
その言葉で、ミアは思い知ったのである。自分は今まで、用意された幸せに胡座を掻いていただけであったのだと。自分の力で手に入れたものなど何も無かった。そして、失敗したところで誰かが当たり前のようにフォローしてくれるとばかり信じてきたのだ。
あの橋だってそう。本当にアンソニーとの間に橋をかけたいなら、そのためのリスクをきちんと計算するべきだった。面倒くさがらないで、ちゃんと距離を測るべきだったのだ。だって、でも、と不満を言う前に。自分に足らない努力がなんであるかを、きちんと考えなければならなかったのである。
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