モーニン・ガール!モーニン・ボーイ!

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モーニン・ガール!モーニン・ボーイ!

 ミアの朝の日課は決まっている。けたたましくなる目覚まし時計を止め、ベッドでうーんと伸びをした後――着替えるよりも先に窓を思い切り開くのだ。  そして、向かいの家に向かって叫ぶのである。 「ソニー!アンソニー!おーはーよーうー!今日もいい朝ね!」  魔法文明が発達し、同じだけ土壌汚染が進んだこの国。人が住める土地は極端に減り、今やこのように至近距離で高層マンションが立ち並ぶのも珍しくない世の中になっていた。流石に手が届くほどの距離ではないが、ミアが住む黄色い壁のマンションの三十五階と、向こう側の緑色の壁のマンションの三十五階はぴったり同じ高さに位置している。こうして叫べば、十分向かいの家の住人に声が届くほどに。 「うう、おはようミア……相変わらず、朝から元気だなあ」  やがて窓が開き、同い年の少年であるアンソニーが顔を出してくる。きっと今日も今日とて、ギリギリまで眠っているつもり満々だったのだろう。今日は平日で、当然のように学校がある。これ以上眠っていたら、スロースターターの彼はまず遅刻してしまうに違いない。  これはミアにとってはちょっとした親切心で、毎日の習慣だった。そしてアンソニーもアンソニーで、けしてこの“日課”を嫌がっていないことを知っている。以前ミアが風邪で数日寝込んで“挨拶”がなかった日は、“お前の挨拶がないと、朝が来た気がしなくて寝ちゃうんだよな”と笑って言われたものである。 「そりゃもう、元気に決まってるわ!今日は遠足の日よ、忘れたわけじゃないでしょうね!?おやつは300Gまでにちゃんと抑えた?」 「そんなの律儀に守ってる馬鹿はお前くらいだよ!そうだ、今日は遠足だ……急いで着替えねーと」 「そうね。でもってなるべく早くキッチンに向かった方がいいと思うわ。おばさまの目玉焼きが焦げる匂いがしてきてるもの」 「うげっ!」  彼の母親はあまり料理が上手ではない。バタバタと中に戻っていき、身支度を整えるアンソニー。幼馴染の慌てっぶりを、ミアはけらけらと笑いながら見ていた。最も、同じクラスの自分も遠足の集合時間は変わらない。急いで着替えをしなければいけないことに変わりはないわけだったが。  毎日のように、同じ時間に大声で挨拶する日々。慣れ親しんだ日常であるし、ミアの挨拶をアンソニーがひそかに楽しみにしてくれているのは嬉しかった。――それでも、ミアにとっては不満がないわけではないのだが。
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