いわれなき喪失 1

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 真壁が取り寄せた幽崩社の法人登記簿謄本によると代表取締役社長は桜沢慎吾(さくらざわしんご)という人物だった。彼は思い切って幽崩社を直接訪ねることを決めた。  神田神保町の古書店は通常、日曜日が定休日の店が多い。ただし、真壁は幽崩社の古書部が日曜・祝日も開店していることを知っていた。神田隈屋ビルの前に到着した真壁は意気揚々と四階を目指した。少し年季の入ったエレベーターで四階へ上がると幸いなことに幽崩社は営業していた。  幽崩社と書かれたドアを押し開くと真壁は店内に足を踏み入れた。店の両側に背の高い本棚が並んでいる。左右の壁面だけではなく、中央の両面にも本棚が設置され、大量の古書がひしめいている。マニアならば何時間でも過ごせる夢のような空間だった。  正面奥にカウンターがあり、30歳過ぎぐらいの長髪の男性が店番をしていた。彼はパソコンとにらめっこしながら、時折、店内を見回している。店の中には3人の客がおり、それぞれ本を手に取っていた。  真壁は意を決してカウンターの前まで進んでいった。 「恐れ入ります。真壁と申しますが、本日、桜沢社長はいらっしゃいますか?」  真壁の言葉にカウンターの男が不愛想に応えた。 「あっ、社長ですか? いつもならもうとっくに出勤しているはずなんですけど、今日はまだ来ていないですね」
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