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廃屋に鎮座せしモノ 2
朧な下弦の月が中空に浮かんでいた。
粘土質の土壌にはまばらに野草が生え、また小道の周囲の斜面にはクヌギやコナラが無造作に林立していた。この細い山道は、かつては一家の生活に欠かせない道だったに違いない。だがいまは心霊スポットに物見遊山で訪れる若者たち以外に踏みしめられることはない。
「正孝、どう、廃屋はありそう?」
鏡花が先頭を行く正孝にそう問いかけた。
「いや、まだもう少し上り坂が続くみたいだよ。しっかし、なんでこんな辺鄙な山の中のさらにこんなに不便な場所に家を建てたんだろうね……」
4人は恐る恐る慎重に斜面を登って行った。周囲の森は静寂に包まれている。樹々を揺らす風の音、そして時折、「ギャウ」と鳴くコミミズクの声が耳をかすめる。依然、暗闇に目が慣れない。4人はただ黙々とさらに斜面を登って行った。
「おっ、もうそろそろ着くみたいだぜ」
正孝が云った。
「おおっ、いよいよか。なんだか緊張するなあ……。留依、大丈夫か?」
隆が怯える留依を気遣う。「ねえ、やっぱり引き返そうよ。ここ、絶対にヤバいよ……」と留依が躊躇したのは、つい先ほどのことだった。
「……あっ、うん。大丈夫……だと思う……」
留依の気弱な呟きが届く。
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