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留依は、しゃがみ込んだまま茫洋とし、眼は虚ろになっている。まるで魂が抜け出してしまったかのような留依の唐突な変貌ぶりに鏡花、正孝、隆はただ焦るばかりだった。
「留依、大丈夫? 気分が悪いの?」
姉である鏡花が妹に問いかける。そのとき留依の口から予期せぬ言葉が漏れてきた。
「……ああ……あああ……あ……呼んでる……呼んでるよ……ああ……」
驚愕した鏡花が叫んだ。
「留依、な、なにを云ってるの? 留依、しっかりしてよ!」
「……あああ……あ……ああ……あは……呼んでるよ……ああ……」
「留依、なに? なにが呼んでるの?」
正孝と隆は硬直したまま、微動だにできなかった。鏡花は、しゃがみ込んだまま軟体動物のように弛緩してしまった留依の肩に手を回し、その躰を揺すった。
「留依、お願い、しっかりして。どうしたの? 気分が悪いの?」
半べそをかいた鏡花が必死に妹の意識と疎通をとろうともがいていた。
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