廃屋に鎮座せしモノ 2

8/11
前へ
/422ページ
次へ
「……あ、あの……あのね……か、からだが……引っ張られるの……呼んでるのよ……お姉ちゃん……わたし……行かないと……おうちのなかへ……行かないと……」  留依の両目の黒目が異様に大きくなっていた。そのかわいらしい容貌は蒼白となり、言葉を紡ぎながら、微かに痙攣していた。 「正孝、隆、お願い、留依を担ぎ出して。とりあえず救急病院に連れていかなくちゃ!」 「お、おう」 正孝と隆はいま起こっている事態を咀嚼できず、明らかにテンパっていた。 「……だめ……行かなくちゃ……だめ……会わなきゃ……行くから……行くから……」  留依の口から間断なく意味不明な言葉が漏れてくる。 正孝と隆は両側から留依の躰を支え、とりあえず立たせようとした。 「……だから……だめだって……呼んでるんだから……だめだって……行かなきゃ!」  留依はそう云うが早いか、すっくと立ちあがるとフラフラと前に歩き出した。 「ちょっ、留依、なにしてんのよあんた!」 鏡花は予期せぬ留依の行動に度肝を抜かれた。 「留依、落ち着け。もう帰るんだよ、留依」  しかし、正孝の言葉は留依の耳にはまったく届いていないようだった。  留依はおぼつかない足取りで朽ち果てた廃屋に近づいていく。鏡花、正孝、隆はすでに冷静な判断力を失い、ただオドオドして「留依、留依」と彼女の名前を呼ぶことしかできない。
/422ページ

最初のコメントを投稿しよう!

370人が本棚に入れています
本棚に追加