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留依は虚ろな表情のまま廃屋の玄関前まで辿り着くと、靴を脱ぎ始めた。
「留依、留依、なにしてんのよ、留依」
鏡花が留依の躰を揺すりながら、彼女の前進を妨げようとする。
留依を追う3人は、それとは知らずに土足のまま廃屋に足を踏み入れた。
真っ暗な闇の中、正孝が持つ懐中電灯の明かりだけが壁の上を目まぐるしく上下左右していた。留依は我関せずといった様子で廃屋のなかを進んでいく。
玄関を入った右側のスペースは予想通りキッチンになっていた。ダイニング・テーブルの上には割れた食器類や台所用具が乱雑に転がっていた。夕食のひととき、家族が座っていたであろう椅子は、すべて横倒しになっている。食器棚の全面のガラスが割れ、またいくつかの扉が開いたままになっていた。予想通りの荒廃ぶりだ。
「留依、留依」
妹の名前を連呼する鏡花の声が虚しく響く。
留依はキッチンを通り過ぎると、その奥にあった居間へと進んでいった。
「……きたよ……きたよ……きたよ……きたよ」
留依の口から声が漏れ続けている。
居間の広さは八畳ぐらいだろうか。入り口の左右の壁には古びた箪笥がいくつか並んでいた。朽ち果てた日めくりカレンダーと新聞紙が散在している。壁の左奥にはテレビ台があったが、テレビそのものはそこにはなかった。
居間の中央には掘り炬燵が置いてあった。炬燵布団はなく、木の骨格だけが寂しそうにそこに置き去りにされていた。
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