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「……すると?」
「道成氏の表情がとたんに曇っていきました。声が震えだし、額にたまのような汗をかきはじめました。そのとき鈍感な私も理解したのです。
……魔都商會の3階にいる少女は、亡くなった東条良則氏の次女に違いない、と。私は震撼しました。そして道成氏に自首を促したのです。彼は土気色になった相貌を伏せ、ただただ泣いていました……」
「そこで彼は観念したんですね?」
「道成氏は私に土下座すると『しばらく時間が欲しい』と云いました。私はどうしてよいものか悩みました。しかし、結局、1日の猶予を彼に与えてしまったのです……」
「そして彼はそのまま行方をくらました」
「……はい。私はとりもなおさず少女を保護しようと思い、魔都商會へと突入しました。そしてそこで少女を発見したのです」
「……彼女が思いのほか元気で良かったですね」
「おっしゃる通りです。あの日、呻き声を聞いた私は、てっきり少女が憔悴しきっているものと勘違いしていました」
「彼女は顔にタオルを巻かれていたんですよね?」
「……はい、道成氏は2階の自宅に人を招くとき、少女が騒がないように、いつもそうしていたようです」
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