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「そして道成の遺体が獅子首で発見された……」
「はい。泣きながら『時間が欲しい』と嘆願していた彼がぽつりと云ったのです。最後に一度だけ、自分が子供のころ住んでいた実家に戻りたいと。しかし、実際に彼が獅子首の小さな祠のなかで自殺していたと聞いたときは驚きました……。本当に実家に戻っていたんだって……。やはり、自分の弟家族を殺害したのも彼なのでしょうか?」
「うむ、物的証拠がないですからね、なんとも断言しがたいことではあります。ただ冴蘭さんを長らく監禁していたのは揺るぎない事実ですからね。
恐らく……」
冴蘭は結局、彼女の予想通り和光市に住む叔母のところに引き取られた。彼女の出現は世間を驚嘆させた。5年前に家族を殺され、長きにわたり監禁されていた悲劇の少女、マスコミはこぞってそれを面白おかしく書きたてた。
和光市の叔母宅には連日マスコミが押しかけ、無配慮な取材攻勢が続いた。すっかり疲弊した叔母は、しかし毅然とした態度で傷ついた少女の心を気遣うよう、社会に訴えた。
「どうか優しく見守ってあげて下さい」
叔母の涙の訴えがテレビで放映されると、SNS上でマスコミ批判が殺到し、ついに過激な取材攻勢も鳴りを潜めていった。
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