追跡者S 3

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追跡者S 3

 頭がボーっとする。体調が悪いわけではない。そして決して疲れているわけでもない。ただ気力が減退し、活動への動機(モチベーション)が欠乏しているだけだ。  大したことはない。いつものことじゃないか。蛍は、ひとりごちた。  薄暗い六畳の彼女の部屋。あるのは安物のベッドと机、食事をとるための小さなテーブルと小さな本棚。味気なく狭い部屋だが、すこぶる居心地がいい。机の上にはパソコンと充電中のスマホがある。それらは蛍が外の世界と繋がることかできる数少ないデバイスだった。  自室にはテレビもあったが、蛍はあまりテレビを観ることもなかった。世間の時流には一向に興味がなかった。時事ニュースは、よほどの大事件、ないしは大惨事でも起きないない限り、関心をもつことがない。  ああ、母はきっと私のことはもう半ば諦めているんだろうな……また陰鬱な気分が訪れる。シングル・マザーの家庭で育った蛍の人生は、途中までは比較的順調だった。  快活で社交的な母、清美は子供に対して大らかだった。 清美は自分のひとり娘に対して過度な干渉はしなかった。そのかわり、娘に過度な期待もしていなかった。ただのびのびと育ってくれればいい、それが清美の基本姿勢だった。
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