追跡者S 3

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 意識を明晰に保ったまま、蛍は夢に匹敵する明晰なヴィジョンを操れるようになっていた。そして入眠前に、自分の第二の身体が肉体から遊離する体外離脱現象を何度となく体験するようになった。  蛍はこの自分の特殊能力に酔いしれ、耽溺した。  そんなある日、自分が構築した石造りの要塞で遊んでいるときにそれは起こった。蛍は現実的空想の風景のなかで歪な魔物と邂逅したのだ。それは獣変身した奇怪なナニモノカだった。魔物は要塞のなかを逃げ惑う蛍を追いかけ回し、彼女の平穏をすべて破砕した。  蛍は重度の不眠症になった。眠りに着くと、時折、あの魔物が姿を現した。そして邪悪な意志を搭載した魔物は再び、蛍に襲い掛かってきた。蛍は自分の身にふりかかったこの災厄に対処すべく、インターネットで類似の事例がないか検索した。それは夜を徹して続けられた。  そんなとき、蛍が発見したものが「星幽体投射 その理論と実践、覚醒夢から自由な異界探索へ」というコンテンツだった。執筆者は自らを「庭園の錬金術師」と名乗っていた。蛍はそのコンテンツを熟読し、得心した。そこには彼女が求めていた情報のすべてが書かれていた。彼女はコンテンツを掲載している「神秘蔵アヌビス」というサイトにメールを送り、より詳しい情報が欲しいこと、また自分の身に起こっていることを相談したいと書き綴った。
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