追跡者S 3

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 時間は夕方の6時過ぎになっていた。蛍はベッドから起き上がると、暫くボーっとしていた。ああ、なんだか悪い夢を見たなあ、ええっとなんだっけ……、蛍は茫然としながら、さっきまで見ていた不可思議な夢の内容を思い出そうとしていた。  蛍は、夢の中で見知らぬ町にいた。そこはヨーロッパの雰囲気が濃厚な場所だった。しかし、日本らしさが無いかと云われればそうでもない。国籍不明の見知らぬ町、夢の世界というのは大抵そんなものだ。  蛍は自転車に乗って急な坂道を下っていた。辺りに人影はなく、少し寂れた感じのする町だ。  坂を下りきったところに一軒の店があった。ああ、あそこは確か去年ぐらいに開店したレストランだ。不思議なことに夢の中では、現実とは乖離した独自の時間軸が機能している。まったく知らない町の見知らぬ店なのに、なぜだかそこがレストランであるこを蛍は知っていた。  ああ、今日もまた会合をやっているんだ……。蛍はそのレストランが、犯罪を企てるギャングたちの集会場を兼ねていることを知っていた。だが、次の瞬間、そのレストランは寂れた古本屋に変わっていた。 「意図された創造的想像に比べると、眠っているときに見る夢は本当に脈絡がないわね」  そう云うと蛍は笑った。
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