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蛍は誰もいないマンションの中を闊歩した。1日のほとんどを自室で過ごすが、もちろん、必要に応じて部屋を移動するし、買い出しに行くときは外出もする。
蛍はキッチンに向かうと冷蔵庫からミルクを取り出し、それをガブガブと飲んだ。それから蛍はトイレに行った。用を足すと再び自室に戻るつもりだった。
トイレから出て手を洗っているときだ。蛍はフト洗面台にある鏡を覗き込んだ。別にお肌の調子が気になったわけではない。本当になんとなく、フトそれを眺めたに過ぎない。
刹那、蛍は自分の背後に人の気配を感じた。
「なんだ?」心の中で呟いた蛍は、ゆっくりと後ろを振り向いた。だが、そこには誰もいなかった。家の中は相変わらずシンと静まり返っている。
……気のせいか……。
気を取り直して前を向くと、蛍はまた鏡を見た。
そして鏡の中に映る異物を発見した。
自分の背後に一人の少女が立っていた。肩まで伸びた艶やかな髪、美しい流線形の瞳は一直線に蛍を捉えている。バランスのとれた美しい鼻梁、そして蠱惑的な薄い唇は左右に伸び、不気味な笑いを浮かべている。蛍の姿に隠れて少女の服装はよく見えなかった。しかし、少女が少し動くたびに洋服の衣擦れの音がした。
蛍は仰天した。もちろん、過去、幽霊の姿を見たことは何回もある。しかし、自宅に出現した見知らぬ少女を見たことはただの一度としてない。
蛍は反射的に後ろを振り返った。するとそこには鏡の中にいたそのまんまの美少女が薄笑いを浮かべていた。
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