追跡者S 3

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「……気付いた?」  それは少女の声だった。彼女はどうやら、蛍の脳内に直接、話しかけているようだった。 「…………」咄嗟のことに蛍は絶句した。  少女は中世の貴族婦人が着るような豪華なピンクのロングドレスに身を包んでいた。華奢なボディライン、引き締まったウェスト、少女はすこぶる可憐だった。 「こいつ生きてやがる!」蛍の直感がそう教えてくれた。 「そうよ。でも私はいま囚われの身なの。だから、こうして肉体を飛び出してきたの。そして私は、私が造った異世界のお城を訪れるの。あはははは、そのとき私は自由だわ……。だってそこには私が望むものがなんでもあるんですもの」  少女は嬉しそうに笑った。 「あ、あ、あなたはだれなの?」 蛍は辛うじて、声を絞り出した。全身は硬直し、時間が停止している。 「私? 私は冴蘭(さら)よ。冴えわたるに蘭の花と書いて冴蘭よ。覚えておいてね」 「え、えっ、さ、さら……?」  次の瞬間、少女の姿はまるで煙が強風に煽られたかのように一瞬で消えてしまった。 「えっ、な、なんで……」  蛍は暫くそのまま微動だにできなかった。  その時、自分の部屋からスマホのけたたましい呼び出し音が聞こえてきた。 「なんで……? 私、いつもバイブレーションにしてるのに……」  我に返った蛍はとぼとぼと歩きだした。いまだに心臓が爆発しそうだ。
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