神秘なる山麓を超えて 1

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神秘なる山麓を超えて 1

 山根留依はひとり静かにベッドのなかでスマホをいじっていた。眠れない。彼女はここ数日のうちに自分の身に起こった怪異を順次想起していた。  まず金曜日。4人で訪れた西東京の山深い廃屋で起こった怪異。廃屋に辿り着き、みんなと会話したことはよく覚えている。しかし、その先は漠然としていてよく思い出せない。姉の鏡花が云うには、留依は突然、自我を喪失し、フラフラと廃屋のなかに入っていったという。  ここで留依はスマホを脇に置き、瞑目した。  ああ、分からない、どうしても細部を思い出せない。あの廃屋でなにがあったんだろう。そして……私はなぜ、あんなにも恐ろしい廃屋に自ら足を踏み入れたのだろう?  そして廃屋の闇の中には、不気味にせせら笑う少女がいた。これも姉に聞いた話だが、どうやら私は自ら進んで、その少女に会いに行ったように見えたそうだ。まるで彷徨(さまよ)える夢遊病者のように。  次に気がついたとき、留依は正孝が運転する車の後部座席にいた。なんだか頭が重く、少し吐き気がした。帰宅してシャワーを浴び、早々に床に就いたが、ほとんど眠ることができなかった。不思議な胸騒ぎが続いていた。そして朝日が留依の部屋に差し込むそのときまで、実質、彼女は一睡もできなかった。
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