神秘なる山麓を超えて 1

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 次の日、留依は秋葉原のアイドル・カフェ――留依の主戦場――でライブを行った。留依が所属する、なんちゃってアサシンの定期ライブだ。  当然、アサシンの熱烈なファンが多数詰めかけ、ライブは大盛況だった。ただ自分で思い返してみても、それは留依にとって最悪のパフォーマンスだった。  躰が重い。まるで鉛を背負っているかのようだ。声にも張りがない、いや、声がまともにでない。そして自然に湧き出る笑顔がない。私はいま楽しんでなんかいない。「あの日、私は必死で演技してたんだ……」留依はまた憂鬱になった。  日曜日のライブも最悪だった。まるで覇気がない。そして喉に何かがつっかえている。その日も実に不快な1日だった。  もうひとつの怪異は土曜日の2回目のステージが終わったときに起こった。留依の熱烈なファンのひとりである通称フーミンが留依とのツーショットを所望してきた。フーミンは意気揚々と写真に納まっていた。  だが留依は、熱を帯びたハイテンション中年ファンに多少、辟易した。汗臭い? やだ……なんだか牛臭い……。大切なファンの人なのに……どうしてこうもネガティブな方向に思考が向いてしてしまうんだろう? ああ、でも早く楽屋でゆっくりしたい……。
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