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フト、湖面に視線を移した留依は、そこに水中を遊泳する青光りする龍のような生き物を見た。大きい、でもちっとも怖くない。留依は安堵した。龍のような生き物は、どうやら叡智をたたえた古代の賢者の化身のようだった。
そのとき、どこかから――あの小島から?――美しい女性の歌声が聞こえてきた。それは透き通るような天使のソプラノだった。しかし、歌詞はよく聞き取れなかった。どうやら日本語の歌ではないようだ。
フランス語? それともスペイン語かしら? 留依は不思議に思った。それは明らかに英語の歌でもなかった。
「うふふふふふふ」
不意に背後から、くぐもった笑い声が聞こえてきた。留依は反射的に振り返った。そこにはあの少女が座っていた。小さなボートの上で、留依と少女は向かい合っていた。
留依の動悸が早くなる。あの子だ、あの子がきた!
私をどうするつもりたろう。
「どうもしないわ。どうしてそんな風に思うの?」
少女は少し悲しそうにそう尋ねてきた。留依は動揺しながらも、可能な限りの平静を装うべく姿勢を正した。そして深く息を吸い込んだ。
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