神秘なる山麓を超えて 1

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 女は黒い法衣を纏い、金色に輝く腰紐をつけていた。胸には五芒星のペンダントが輝いている。そして腰には鞘に納められた短剣を携えている。 「ふん、またおまえか……本当にしつこいわね」  冴蘭の容貌が途端に緊張し、怒気をはらむ。どうやらこの女は冴蘭の宿敵のようだった。 「うん、そうね。訳があって今回、私はとてもしつこいの。あっ、それからまだ私の名前を云ってなかったっけ? 私は蛍。以後、蛍ちゃんって呼んで。 この子でしょう、冴蘭が追い回しているのは。……そしてあなた、るいるいでしょう? 気を付けて、冴蘭は定期的にあなたの部屋を訪れているわ。 るいるい、部屋にひとりでいるとき、なんとなく人の気配がすることはない? そんなときは冴蘭がすぐ傍にきていると思って。彼女の目的はそうね、あなたを彼女の隠れ家に連れ去ることよ」  女が云うと、冴蘭はまだ幼さが残る美しい相貌を憎々し気に強張らせ、 「連れ去るんじゃない、一緒に暮らしてもらいたいだけだ」と云い放った。
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