神秘なる山麓を超えて 2

3/10
前へ
/422ページ
次へ
 蛍の単独の追跡が始まった。蛍は続く一週間、冴蘭の追跡を行うことを真壁に約束した。どうせ時間は有り余るほどある。そして一週間に及ぶ追跡劇の結果について、来週の土曜日のアヌビスの定例会で報告することになっていた。「気を抜けないな」、蛍は唇を噛み締めた。  真壁と会話を交わした日の深夜、早速、蛍は作業に取り掛かった。 「人間の身体内には、実際の肉体のサイズと形態が近似したもうひとつの身体があり、それは、より繊細で、さりとて、決して錯覚とはいえない希薄な物質からできている」  それは真壁と出会った後――それは二年前に遡る――に、彼から直接伝授された個別授業の冒頭の言葉だった。 「この身体は様々な著述家によって星幽複体-Astral double、光体-body of light、火の身体-body of fire、欲望体-body of desire、微細身-fine body、輝ける身体-scin-laecaなど様々な名前で呼ばれている。そしてこの第二の身体は、自らが帰属する精神領域の対象、とりわけ、星幽界のヴィジョンを知覚するのに適している」  真壁の言葉に蛍は問い返した。 「星幽界? それは死後の世界のことですか? それとも……」
/422ページ

最初のコメントを投稿しよう!

370人が本棚に入れています
本棚に追加