神秘なる山麓を超えて 2

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「うむ、その概念を平易な言葉で説明することは難しい。あらゆる言葉は誤解を生じせしめる。いいかい、蛍、君はもうその世界を十二分に体験しているじゃないか。君が想像の中で駆け回っている、あのおとぎの国のことさ」 「おとぎの国……」蛍は首を傾げた。 「そうだ。それは人間の想念が作り出した色鮮やかな世界だ。心の世界だと言い換えてもいい。そして、その低次の領域は死して彷徨える魂が徘徊する場所でもある。彼らは物質的に死滅しても想念として生き続けている。 そしてもうひとつ、星幽界は夢の世界と有機的に繋がっている」 「夢の世界……」 「そうだ。しかし少し考えてみたまえ。君が夜眠っているときに見る夢は実に脈絡がない。自分の幼馴染が出てきたかと思うと、対象は何の脈絡もなく、次の瞬間に君の学校の教師に変身したりする。あるいは、机の上にあった色鉛筆が、急に鳥に変身し、空に飛び立っていく。つまり、それは制御不可能な脈絡のない世界だ。物理の法則に反した様々なことが起こる。夢の象徴について、あれこれと述べる心理学者もどきや、夢占いの布教者たちは多い。だが君は、そういった人たちが作った象徴辞典や恣意的な解釈に耳を傾ける必要はない。彼らは人間の魂の多様性と理解の多重性に対して制限をかける。彼らはAとはすなわちBの別の姿だという還元主義によって、未知のものを捕捉しようとする。だが、たいていは的外れなことが多い」 「……はあ……」
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