神秘なる山麓を超えて 2

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「いずれにしても君は、その脈絡のない夢を制御しなければならない。君は既にその技法の最初の難関を乗り越えている。さて、私たちが取り組むべき第一の命題は、ことだ」  蛍は真壁の云っていることが、なんとなく分かるような気がした。ただし、それを明確な言葉で表現することができない。 「目覚めたまま夢を見る……。そんなことが可能なんですか? それって単なる想像なのでは? あるいは妄想?」 「はははは、それでいいんだ。確かにそれは想像さ。ただし単なる想像ではない。いわば意図された能動的想像だ。あるいは創造的想像と呼んでもいい」 「能動的想像?」 「私が冒頭に述べた、身体内にあるもうひとつの身体について考えてみよう。実は多くの人がその身体を意識することなく活用している。まずスポーツ選手が行うイメージ・トレーニングだ。例えば、短距離選手がイメージするスタートダッシュの脳内訓練だ。スタートのビストルが鳴るその瞬間、そのタイミングを瞬時に捕捉し、すぐさま全身の筋肉に命令を発する驚異の一瞬だ。それはまさに精神力の闘いでもある。究極まで研ぎ澄まされた集中力の獲得は実は精神の力に帰するところ大だ。実際の肉体を使わなくても、アスリートはいつでもイメージ・トレーニングを行うことができる。飛行機や車の移動中にもできるし、夜、就寝前にベッドのなかで行うことだって可能だ」 蛍は頷いた。
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