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誘われて気持ち落ちて…
「ウイスキーシングルお願いします」
立ち飲みバーで一杯が毎日の日課だ。
沢口みや26歳。失恋してしまった。
片思いしていた同僚に恋人がいた事判明。今日はやけ酒でもしようかなって気分。
グイッとウイスキーをあおった。
「そんな飲み方したら倒れちゃうよ」
ビールを片手にいつの間にかみやの横に40歳くらいの男性がいた。
「倒れてもいいんです」
ぶっきらぼうに答える。
なんだ、このオヤジ!
「ゆっくり飲んだ方がウイスキーは美味しいよ」
誰だかわからないけど感に触る。
みやは気分良くないのか半分残っていたウイスキーを一気に流し込んだ。
「ぷはっ」
みやはお酒が強くない割に飲むのは好きなのだ。もう、ほろ酔いだ。
「ウイスキーのシングルおかわり!」
あらあら。と、オジサン…川口裕也はみやを心配して見つめている。
「なんかあったのかな?」
みやは、2杯目のウイスキーのグラスを店員から受け取るとひと口飲んだ。
「知らないあなたに何がわかるんですか?私、売女じゃないんで」
裕也は眉根をあげた。
「誰も売女なんて思ってない。お節介なのはわかるが、ウイスキーをあおっている女性は危ない」
みやはまた、ウイスキーを口にした。
「失恋女なんです。バカですよね。バカに関わらない方がいいですよ」
ぐぐぐとウイスキーをみやは一気に流し込んだ。
「失恋したのかい?あ、危ない!」
みやは倒れそうになった。
裕也がみやの体を支えた。
失態を見られていい気持ちはしない。
「歩けるかい?」
裕也はハラハラしながら言った。
みやの視野はほとんど見えていない。
「うう…。誰か助けてよ」
泣き始める。裕也はそんなみやの腕を肩に回し、勘定、この子の分も一緒に。と言って財布を出し、払うとゆっくりと店を出た。
「キスって気持ちいいよね」
みやは、裕也を誘惑してみた。酔った勢いというやつだ。
「キスしたいのかい?」
みやはこくんとうなずいた。
「私ね、20歳の時にキスとセックス知ったの。痛くてそれ以来してない。オジサンは、こんな女どう思う?」
「優しい男性に会ってないだけさ」
みやはあははと笑った。
「キスは痛くないから好き。オジサン、今なら私を抱けるよ。売女じゃないけどオジサンとならしてもいいよ」
「オジサンじゃない。川口裕也38歳だ。まだ、結婚もしていない。オニイサンだよ」
裕也はラブホの前で止まった。
みやは、視界が真っ白で見えていない。
こんな状態のまま、この子を置いてはいけない。
「ホテル行こうよ。オジサンならお金ありそうだし、いいよ」
「そうだな、金はあるよ。行こうか」
「キャハハ」
裕也はみやを担いでホテルへと入っていった。
「はあっ」
裕也はみやをベッドへと雪崩れ込むように下す。
みやは、気持ちよさそうに寝ている。
「寝てやがる笑」
ふっと失笑して、裕也はシャワーを浴びる事にした。
オーダーしたばかりのスーツにシワが付いた。仕方ない。
勢いとはいえ、ホテルにいるのがわかったら驚くだろうに。でも、家も名前もわからないこの子をどうする事も出来ない。
スーツを丁寧にハンガーにかけた。
ワイシャツもシワが寄っている。
ワイシャツは別に掛けた。ネクタイも一緒に掛けた。
ラブホなのでそのままパンツを脱いでパンツが見えたら彼女が慌てると思い、空いている引き出しにしまった。
「やれやれ」
裕也はシャワーを浴びた。
「意外といいガウンだな」
シャワーを浴びるとバスタオルで全身を拭いた。頭を拭きながら綺麗に畳まれたバスローブを見た。
「俺だって何年ぶりなんだよラブホなんて」
裕也は天井を見た。
ざっと3年は彼女がいない。
だからと言って、酔っ払いを相手にしたいとは思わなかった。
「寝るか」
ベッドへとはいかないのでソファに横になった。180センチの裕也には小さかったが仕方ない。
バスタオルを布団がわりにして眠った。
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