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【2】
誰が想像出来ただろうか?
いつもの通学中、魔方陣に吸い込まれてしまうなんて、誰が想像出来ただろうか。
ましてや小学生な彼女達に魔方陣あるあるが通用する訳もなく。
「こ、これって……い、いせかいキターー!」
「「れおんちゃんっ!?」」
訂正。適正はある模様だが、それはさておき、当然、無防備だった麗音はまんまと吸い込まれ、魔方陣と共に桜と舞の前から姿を消してしまうのだった。静まり返る桜並木道。
あまりに突然の出来事に二人は豆鉄砲でも喰らったかのように目を丸くし、お互いの顔を見合わせては瞳を瞬かせる。
「れおんちゃんがしょ〜かんされちゃった!」
「しょ〜かんキターー、だねぇ!」
通学路には何事もなかったかのように桜の花びらが舞うのだった。
——
一方、吸い込まれた麗音は絶賛絶叫中である。
「びえぇぇっ!?」
黒い靄の中を凄い勢いで落下しながら、
「ぴやぁぁぁぁぁぁっ!?」
絶賛絶叫中。
暫く落ちると麗音の視線の先に光が見えてくる。
「ぴぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
まもなく小さな身体は光に吸い込まれて謎の空間から消えた。それと同時に、光の出口は静かに閉じる。
——
【とある魔界の住宅街】
石造りの建物が建ち並ぶ人気のない目抜き通りを一人歩く緑。——緑は身長140センチほどの少年に見えなくもない。
大きな単眼の碧色少年という事だけを除けば、ではあるのだが。
一見常軌を逸した少年もここ、魔界では大して珍しくもないサイクロプスという種族だ。少年はボロ切れのようなシャツと破けた短パン姿。
「……皆んな、食事にしようか」
碧色少年がパンパンと手を叩くと、一人、また一人と子供達が顔を出す。肌の色は様々、容姿もヒトとは違う所謂魔物の子供達が数人、大きな瞳をパチクリとさせながら石造りの建物から通りに出て来た。
「サイにいちゃんだ……!」
「サイにいちゃんが帰ってきた!」
子供達は自分達よりも一回り大きなサイプロクスの少年に我先にと飛びついた。
「ほらほら、押さないで皆んな、よしよし」
サイは優しく子供達を諭すと持っていた袋から缶詰を取り出し封を開けた。美味しそうな魚の味噌煮のようなモノが露わになるが、
しかし、子供達はシュンとしてしまった。
「ま、また缶詰……?」
「我慢しておくれ。今は仕方ないよ。また明日、生きている仲間を捜しに行く。その時に食料も見つけてくるよ。もしかしたら大人が生き残っているかも知れないし、それまでの辛抱だよ。だから今日はこれで許しておくれ?」
「サイにいちゃん……ごめんなさい、ワガママ言って……うぅ」
「構わないよ、僕だって……また母さんの手料理が食べたい。僕だって……同じだよ」
サイは子供達の頭を優しく撫でてあげた。子供達はくすぐったそうに身をよじらせながらも彼の優しさに身を委ねる。
碧色少年サイの大きな瞳は今、何を映すのか。
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