ミニ・コンサート

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 コンサートは俺的には成功だった。中島みゆきの暗い曲ばかりをリクエストしたサンドは、泣いてくれた。  俺はローズマリーの助言に従い、上手く歌う、上手く弾くことを目標から捨て、自分の弱さ、傲慢さ、ズルさ、だらしなさ、ダメなところを素直に皿にのせて料理した。俺は『革命』を演奏するのではなく自らの生き方に『革命』を起こそうと挑んだ。  お客様は皆、俺の母より年上なのだ。甘えても間違っても大目に見てくれるだろうが、優しさに甘えることは失礼だ。俺は彼女たちに『金』と『心』で応援されているのだ。  耐火金庫にしまい込んでいた俺の心臓を皿にのせ、素っ裸の愛を語った。素直に歌った。夢を燃やした。それは多少震えていて、時々間違えた。  俺はそれまで男の思考回路を学んで来た。好きな作家はすべて男だった。好きな教師も男だった。家庭でも兄や父の考え方に強く導かれた。  だが、ホストクラブで俺は、人生経験豊かな女性たちから、それまで予想したこともない甘い果実の味を教えられた。世界の広さ街の厳しさ、それを柔軟に乗り越える心の機微を教えられた。一人一人の中に灯る命の炎の揺らぎを教えられた。空から見る海と、海の底から見上げる空があり、どちらかの現実は常に『僅かな現実』であることを実感する。男と女のそれぞれの現実、一人一人の現実は常に『僅かな現実』に過ぎない。だから愛おしく、だから貴重でもあるのだけれど・・・ 
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