小学時代

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小学時代

 そんな孤独な幼少期を余儀なくされていたことが原因だと思うが、小学校に入学した当時、俺は他の子どもに馴染めなかった。  俺の友だちになってくれたのはクラスで一番頭のいいフミヤと、頭が空っぽのケイスケの二人だけだ。中学を卒業するまで、俺の友だちは彼らだけだった。だがフミヤとケイスケは友だちではなかった。俺は常に、どちらかと二人だけで行動した。  フミヤは好奇心旺盛で、学校帰り、いろいろ寄り道をした。川の浅いところの石を裏返して川虫を探し、それを草で縛り魚を釣る。山に行き、太い木のほこらに棒を突っ込み蛇を誘い出す。高い木にロープを括り付けターザンのように神社の屋根まで飛び移る。  猫や犬の死骸を発見すると人目につかない場所へ隠し、毎日どんな風に変化するか観察することも彼は好きだった。ウジ虫が湧き、チリチリと音を立て肉を食い荒らし、少しづつ骨が露出していく(おぞ)ましい死後の変遷を俺たちは何度も見た。  ケイスケの家は山の上の農家だった。遊びに行くとケイスケの父親は 「好きな鶏を絞めろ!後で肉にして持たせてやるから。」 と言った。俺たちは放し飼いになっている鶏を追いかけたが、まるで捕まえられなかった。鶏はキケンを感じると空高く飛んで逃げた。急斜面を利用すると数十メートルも飛べるように見えた。もらった卵を家でフライパンに割ったら、口ばしや目玉ができて鳥になりかけていたりした。  ケイスケは走るのは誰より速かった。短距離でも長距離でも、獣のような勢いで跳ぶように走った。俺は彼と友だちだったお陰で、彼の次に速く走れた。  俺は幼少期の長い間、家に封じ込められていた反動で、小学時代は毎日、暗くなるまで野山を駆け巡り、擦り傷・切り傷が絶えない危険な遊びに夢中だった。  同級生のほとんどが、野球少年団、サッカー少年団などのスポーツに打ち込んでいる時間、俺は自由に野山を駆け巡っていた訳だが、良くも悪くも今の俺は、その経験の積み重ねで出来上がっている。
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