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ネズミ
僕はネズミだ。だから、木に登った。
いつだろうか。学校の理科室で、何気なく手に取った本に書いてあった。ネズミは、他のネズミの悲しみに共感してしまう。だから他のネズミが困っていたら助けるし、悲しまないよう、苦しまないように行動する。
僕に似ているな、と思った。
映画を見ると、絶対に泣く。主人公の悲しみが、僕に乗り移ってしまうから。テストでも、僕が合格点を取っても、隣の人が赤点を取って落ち込んでいると、一緒にしょんぼりしてしまう。
これは生まれながらの僕の性格、体質なんだと思う。だから、下校途中に通りがかった道路沿いの公園で、大きな木の枝に引っかかってしまったボールを見上げながら困っている少年を見かけると、そのまま放っておくことなどできるはずはなかった。
僕はネズミだ。ネズミはジャンプ力もあるし、木登りが得意。だから、いけるはず。僕に任せておけ。
そう自分に言い聞かせることで、僕は意を決して登り始めることができた。
公園に植えられた木の高さは、周りを囲む住宅街の、二階ぐらい。
その中ほどの枝の上で、僕は足がすくんでしまい、完全に身動きが取れなくなってしまった。
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