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あれから二人の子どもを産み育てた。夫は実父よりも寡黙な性格で、家庭のことは妻がやるべきものだと手を差し伸べてくれたことは一度もない。
それは死ぬまでずっと変わらなかった。
一人になったわたしは老後を考え、手に余る年季の入った一軒家を手放し、ひと部屋のアパートへと住処を変えた。
二人の子供もそれぞれ家を建て、上の子がわたしを案ずる。
一緒に暮らさないかと言われて嬉しさもあるけれど、正直一人でいられるだけいたかった。75になるまで一人でいた。毎日毎日、いつまで生きなければいけないのだろうと悩み続けた。
そして、同居を始め、1年が経った頃。
『お義母さん、お散歩の時間ですよ』
息子が仕事に出るとお嫁さんはわたしに声を掛けてくる。
『今日は5時くらいに帰ってきてちょうだい』
それは5時まで帰ってくるなということだった。
年金の管理はお嫁さんがしているから、わたしの白茶けたがま口のお財布には千円札が一枚。
わたしはどんなに理不尽な扱いをされてもなに一つ言わない。
『今日はどこの公園に行こうかしら』
早く来世にいきたいと募る想いを思えば、こころは穏やかでいられる。
そんな日々が続きに続いて、12年も経つ。
もう年を重ねすぎて、足腰も役に立たない。彼のお墓は隣県のお寺にあり、そこまでの所要時間はもう今年で精一杯。
でもいいですよね。
この世に欲も未練もありません。
もうすぐわたしは、あなたに会いたい。
会いたいのです。
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