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episode1 なんでも屋の蘆屋小次郎
佑太と鈴は先程の横断歩道に背を向け、てくてくと歩く。『裏路地』は、いわゆるここの大通りとは一本外れたところだとつり目の人が言っていた。
「確かこっちの方……」
佑太は少し不安げに右の通りへおそるおそる足を向ける。鈴も見習って、佑太の後をひょこひょこついて行った。自分たちがいる大通りは大人がわらわらと溢れかえって、通りに面している居酒屋などの店舗も明かりが灯り活気づいている。夜という点を除けば、佑太達が知っている普段と変わらない東京だ。
ところが、今から踏み込もうとしている右の通りは何故だか歩く人がまばらなのである。というより、極端に少ない。何軒か家があるようだが、こちらの派手な蛍光色とは違って遠慮気味にぼんやりと薄明るい。
すぐ近くにある光景に全く気にも止めず大通りを行き交う人々と、やけに閑散とした異様な雰囲気を纏う目の前に広がる道に戸惑った佑太は歩みを手前でピタリと止めた。
「……行かないの?」
黙っている佑太に顔を覗き込みながら鈴が尋ねる。
「ま、間違ったかも」
「でもこの大きい通りを真っ直ぐ歩いて、右に曲がると別の通りに出るって」
「確かにそう言ってたけどこれはなんか違う気が……」
「歩いてきた道の途中に右に曲がるとこなんてなかったよ」
「それもそう……だけど……」
教えてくれた当の本人であるつり目の人がこの場に居ないことが悔やまれた。
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