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「それでさあ、このシャツも結構高いわけよ。謝って済むレベルじゃないわけ。さっきからこうやって言ってるんだけど、この子『ごめんなさい』ばっかりで全然言うこときかないし、どうしようかと思ってたんだよねえ」
男はかなりの大声で言い分を語っている。要は金を要求しているのだ。
いくら小学生とはいえ、高学年ともなるとさすがにわかる。佑太は鈴の前に立って男と相見えた。
「ごめんなさい、僕のせいです。僕がこの子を押したから倒れたんです。だからそういうこと言うのは僕だけにしてください」
きっぱりと告げた。
周りの人は、佑太の目の端に映るあの横断歩道を信号が変わると、いつもと変わらない様子で渡っていく。こちらに見向きもしない人もいれば、哀れな目で見て通り過ぎていく人もいた。ここは自分でどうにかしなければならないのだ。
「へえぇぇ、そうだったのかあ。君がねえ……」
ますますにやけて、佑太をじろじろとみてくる男。ここでたじろいではいけないと、ぐっと足と拳に力をいれた。
「君の方が物分かりが良さそうだから助かるよ。じゃあとりあえず、クリーニング代としてもらおうかなあ。いやしかし良かったねえ。優しいボーイフレンドがいて」
男は茶化した口調で、佑太の後ろで隠れるようにしていた鈴に向かって声をかけた。鈴はおびえた様子で佑太の肩に手を添えている。
「僕と話をつけるんじゃないんですか」
鈴を隠すようにもう一度、佑太から男に話しかけた。目線を再び少年に戻して、巻き上げる金額を伝えようと男が身を屈めた時だった。
「ちょっとお兄さん。そこでしゃがまれると邪魔になるんだけど」
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