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そんながやがやとした雑音に混じって二人のすぐ近くで、あのつり目の人の声がした。どうやら間で身を屈めて、耳元で話しかけてるようだ。
「いいかい、ボクとお嬢ちゃん。お喋りはあとでな。今は黙っているんだよ」
佑太と鈴の二人は口を開かずにただこくりこくりと頷いた。その返事を見ると、再びすっと身を真っ直ぐにする。
「気が変わらないうちにって言ったんだけどなぁ…………」
こっちの気も知らないで、とやる気のないため息をついたかと思うとつり目の男は目を大きく見開いた。
その目の色は黄金色に光ったかと思うと、どんどん光の強さを増していく。そして街に差し込んでいる橙色と一緒になり、あの男を始めとする周囲の野次馬になりかけていた人達も思わず、視線を彼らから目を逸らしたのだ。
光が弱まり、男がやっと目を開ける頃にはいつもと変わらない夕方の交差点の風景が広がっていて自分はあのコーヒーを持っていなかった。代わりに握りしめていたのは緑色をした五枚の葉っぱだけである。
気が動転した男は、横断歩道を渡ろうとしていた一人のサラリーマンを捕まえて聞いてみた。
「おい。さっき、ここに二人のガキと変ににこにこしたやべえ奴いたよな?」
「さ、さあ?」
「いただろっ、ここに。俺が金巻き上げようと……あっ」
「え、ちょっとなんですか。警察呼びますよ」
自らで墓穴を掘る失態。なんとか弁明しようと言い直したが怪しげな疑惑を向けた目は変わらなかった。
男は次々、同じことを聞いたが誰も知らないと言われてしまった。
なんだか狐に化かされたみたいだ。
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