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「よぉし、もう目を開けて大丈夫だ」
そう言ってつり目の人は、ゆっくりと手を鈴と佑太の目元から外す。恐る恐る目を開けて辺りをきょろきょろと見回してみると自分たちの後ろに横断歩道がある。さっきまでは渡る前だったのに、と佑太は目を丸くさせてつり目の人を興味津々に見上げた。
「ど、どうやったんですかこれ」
「それは内緒」
その人はいたずらっ子のように、人差し指を立てて意味ありげに微笑んでいる。こう言われてしまったら、どれだけ聞いても答えをはぐらかされるだろう。佑太は残念そうに口を尖らせた。
「まずは、お礼言わないと」
鈴がまた遠慮気味に佑太の袖を軽く引っ張る。それもそうだ。驚きの連続ですっかりお礼を言い忘れていた。
「助けてくれてありがとうございましたっ」
「ありがとうございましたっ」
勢いよく頭を下げた佑太に続いて、あとからぺこっと鈴が頭を下げた。黒と赤のランドセルも軽く彼らの背中で跳ねる。
「だから、先に気づいたら自分から言えっての」
「だって私話すの得意じゃないもん」
「またそうやって」
頭を下げた時、こっそりとまた隣の佑太に小言をつかれてしまった鈴はぷうっとむくれた。その様子に気づいたつり目の人は、ふふっと小さく笑う。
「いやいや、そんなたいそうなことしてないけどね。ほら、顔あげて」
まだ夕日が沈んでいないが、街の電光掲示板やビルの明かりなど人工的な光が主役になる時間が確実に近づいている。
そもそも、この辺りに小学生が二人だけで来るのも不自然でとても危険な行動である。特に、この少女の方は確実に狙われるだろうとつり目の人は僅かに眉根を寄せた。
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