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「こんなところにあまり居ちゃいけないよ。さ、早く帰りな」
姿をくらますために向こう側まできた横断歩道だったが、二人をくるりと方向転換させて、ランドセルをぽんと叩く。
「え、でも」
佑太は戸惑いながらも、青になった横断歩道を渡らないように後ろへと引き下がろうとする。
「今日はもういいよ、帰ろう」
「良くない。今日こそすずの友達見つけるって言っただろ」
「だから今日はいいんだってば」
佑太も頑固だが、それよりも鈴の方が頑固だ。どっちも文字通り一歩も譲らない。その二人の間につり目の人がするりと入り、目線を合わせてしゃがむ。
「お嬢ちゃんの言うとおりだ。人探しならもっと明るい方が見つかりやすいと思うよ、ボク」
にこにことしたあの笑顔を浮かべながら声をかける。佑太がまだ何か言いたそうに口をもごもごと動かしていると、鈴がつり目の人の二の腕をちょいちょいと人差し指でつついた。
いきなりのことに少し動きが止まったが、今度は鈴の方に顔を向ける。すると遠慮気味にこそっと耳打ちをしてきた。
「あのね、夜にならないと見えないの」
思わず耳を疑った。つり目を一瞬見開いて、鈴の方に向き直る。ぽんと肩に手を置いて確認するようにゆっくりと小声で尋ねた。
「……みえないのかい、お嬢ちゃんのお友達は」
「そう。お昼の時間はすーってその子の身体の後ろにある景色が透けてみえるの。でも、夜になると普通の女の子なの」
不思議そうに首を傾げて答える鈴。この答えである確信を得たつり目の人は、またにっこり笑うとカンカン帽を被り直した。
この少女は恐らく自分の正体にも気づいているのだろう。
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