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先程から二人でひそひそと話しているため、佑太はひとり置いてきぼりをくらった感じがして一生懸命耳を傾ける。しかし、この雑踏の中では断片的にしか聞き取れない。会話をしているのは彼女たちだけではないのだ。
「なあ、ボク」
急につり目の人が自分の方にぐるりと向いた。耳に全神経を集中させていた佑太にとってはいきなりのことだったので「うわあっ」と素っ頓狂な声が出た。
「お嬢ちゃんのお友達、本当に探したいか」
おちゃらけた雰囲気はどこかへ行ったのか、真剣に佑太を見据えている。不思議と怖くはなかった。助けてもらったから、というのが理由なのかもしれないがそれ以外の『何か』が佑太が彼を信じようと思わせた。
「人見知りのすずがすぐ仲良くなれたってとっても嬉しそうに話してくれたんです。でも、その子がこのごろ遊びに来てくれないって寂しそうだったから早く見つけてあげたいんです。……僕はその子に会ったことないんですけど……だから、見つからなかったらどうしようと思って……」
話の内容が後半になるにつれて、佑太の声の調子から不安が滲み出てきた。どうやらワケありのように見える。鈴の方も何も言ってこないので、つり目の人はあえて黙っておくことにした。顎に手を当てて少し考え込む仕草をしたかと思うと、ぽんっと手を打つ。
「そうだ。そこの裏路地に行ってみな」
にっこりと笑ってコンッと手の形をキツネのようにしてみせた。
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